今回の症例は、60代女性の患者様です。
長い間お口の悩みを抱えて、我慢し続けていたそうです。 そして、ついに耐えきれなくなり入れ歯の相談で来院されました。
画像は初診時の写真です。 一目で、これまでのご苦労が伺える状況でした。
歯を無理に残す事が良いとは限りません
下の画像は、初診時のレントゲン写真です。 状態の良い歯がありません。そして、 無理に保存しても、歯の位置が悪いために適切な咬みあわせが作れない場合があります。
全ての歯を失った場合の選択肢3つ 総入れ歯だけじゃありません!
このような場合の選択肢は、主に3つあります。 ① 上下を、総入れ歯にする ② 上を、総入れ歯 下を、インプラントを2本併用した総入れ歯にする *総入れ歯のクレームの多くは、下の総入れ歯が浮き上がる事です。 インプラントを併用する事により、浮き上がりを防止できます。 *上の場合は、4本のインプラントを併用する事が推奨されています。 ③ 上下をインプラント治療で、固定式のブリッジにする *機能的には、歯を失う前と同等まで回復可能です。 もちろん、多数の組み合わせが可能ですので、選択肢は拡がります。
多くの患者様のお悩みをお聞きしていて、感じる事があります。
総入れ歯になるのが怖くて、治療を先送りにしている人がとても多いという事です。
現代は、インプラント治療があります。 全ての歯を失っても、また元に戻せる時代なのです。
かかりつけの歯医者さんでは対応できなくても、 インプラント治療が得意な歯医者さんは必ずいます。
治療を先送りにしていると、状況はドンドン悪化します。 今すぐ信頼出来そうな歯医者さんを探して、治療を開始してください。
総入れ歯が好きな人なんていませんよね・・・
この患者様の場合、 ご相談の結果もう一度、歯を失う前と同じように 不自由無く食事を楽しみたいとのご希望で インプラントで固定式のブリッジによる治療を選択されました。
では、治療経過です。
まずは、出来るだけ早く見た目の問題を解決するために 全ての歯を抜歯し、仮の歯を装着しました。
応急的な、総入れ歯ですから改善点はありますが ひとまず、最低限の見た目と咀嚼機能を回復しました。
インプラント治療は、診査診断と術前の仕込みが全てです
そして、インプラント手術の準備に取りかかります。
総入れ歯の方のインプラント治療が難しい理由の1つに、 「どこにインプラントを埋め込んで良いのか解らない・・・」 というものがあります。
当たり前ですが、歯を全て失っていますから参考にする物が何もないからです。
そこで、真面目な歯医者さんは一手間かけます。
下の写真をご覧ください。最終的な仕上がりを想定してシュミレーションするのです。
これをする事により、インプラントを埋め込む位置を適切に決める事が可能になります。 さらに、最終的な固定性ブリッジの強度を、 適切に確保できるスペースが存在するのかを事前に確認することができます。 緑の丸の部分の歯が、短いのが解りますか?
あなたにとっては何の事やらだと思います。
実は、歯医者さんもインプラントを埋め込む前に 事前にブリッジの隙間を精確に確認している歯医者さんはほとんどいません。
小さなブリッジなら、あなたが咬んだ状態で隙間を確認できます。 でも、咬み合う歯が無い総入れ歯ではシュミレーション無しでは、 確認できないのです。
丈夫と言われているオールセラミックブリッジですが、 簡単に破折します
例えば、大人気のオールセラミックブリッジですが ジルコニアと呼ばれる、高強度のセラミックで製作されることが多いです。
でも、いくら高強度でも最低限の厚みが確保できないと破折します。 教科書的には、オールオンフォーと呼ばれるインプラントブリッジでは 15ミリ以上の隙間が必要とされています。 つまり、シュミレーションして必要なスペースが足りないなら、 インプラントを埋め込む際に、余分に骨を切除する必要が出てくるのです。
安売りのオールセラミックブリッジには、ご注意ください。
骨を切除しないなら、オールセラミックブリッジ以外の設計で対応しなければ 破折等のトラブルになりやすいのです。
このシュミレーション用の入れ歯を装着して、CT撮影をします。
今回は、事前のシュミレーションから咬みあわせの平面を理想的に設定すると 画像左側の隙間が足りない事が判明しました。赤丸部分です。 オールセラミックブリッジにするためには、赤丸部分を切除する必要があるのです。
このような事が、術前に把握できるのです。
このシュミレーション作業は、パソコンソフトでも大まかに確認できますが、 実際のお口の中との誤差が大きくなるという欠点があります。
サージカルガイドも誤差がつきものなのです・・・
そして、サージカルガイドと呼ばれるマウスピースを使い、 インプラント本体を計画通りに埋め込むのです。
ただし、サージカルガイドも誤差があるので熟練が必要になります。
歯科治療は、誤差との戦いなのです。 誠実に、準備をして誤差を少なくなるように丁寧な処置が大切になります。
TVで宣伝している某歯医者さんが、 「インプラントを1本埋め込むのに、5分もかからない・・・」 と話をしていましたが、個人的には速さを競っても意味がないと思います。 もちろん、精確で早いなら大歓迎ですよ。
下の写真は、インプラントが骨にくっついたところです。
インプラント治療は、埋め込んで終わりではありません
そして、いよいよ歯型を採ります。 インプラントの歯型採りは、天然の歯よりもさらに位置関係の精度が重要になります。 特に、ネジで固定するタイプのブリッジは誤差が許されないのです。
下の写真は、歯型採りのパーツを変形が少ない樹脂で固定しているところです。 樹脂の内部には、金属のバーが入っています。 こうすることで、位置関係の精度が高まるのです。
口腔内スキャナーがあれば、高品質な治療ができる訳ではありません
現代は、口腔内スキャナーと呼ばれるデジタルカメラで、 歯型が採れる時代になりました。 但し、口腔内スキャナーも誤差が出るので、 位置関係の記録を今回のような作業で採得する事が大切なのです。
口腔内スキャナーは当院でも導入していますが、症例に合わせて使い分けています。 初代の口腔内スキャナーは、25年以上前に導入しています。
名前が同じでも、インプラントに装着される歯は、 どこの歯医者さんでも一緒ではありませんよ
インプラントに装着される歯は、ネジ固定式と接着材で固定するタイプがあります。 ネジ固定式タイプは、誤差が許されないのです。 理由は、誤差があるとそもそもネジが噛み合わずに固定できなかったり 無理に固定しようとすると、セラミックブリッジが破折するのです・・・。
安売りインプラントの多くは、ネジで固定するタイプではありません。 接着材で固定するタイプがほとんどです。 誤差があっても誤魔化せる?からです。 ピッタリ装着されていなくても、咬みあわせの高さを適当に調整して 接着材でグチャッとくっつけてしまえばあなたには解らないからです・・・。 取り残された接着材は、歯石と同じなのでインプラントが炎症を起こす原因になります。
もちろん、接着材で固定するタイプの全てが悪いのではありませんよ。 私も、必要ならやります。 精度の高い、丁寧な仕事が大切という意味です。
デジタル時代ですが、利点と欠点があります
最近では、パソコンソフトでデザインして、 歯型を作らないでセラミックブリッジを完成する事も可能です。
当院では、模型を製作する場合がほとんどです。 理由は、細部にわたる調整がデジタルでは難しいからです。 下の写真は、製作した歯型模型です。 ピンクの部分は、シリコン製で歯肉のように柔らかくなっています。
ご安心ください あなたが納得するまで、仮合わせを繰り返しますよ
そして、仮合わせを繰り返します。 歯の部分は、シュミレーション用のプラスチック冠なので 歯の色では無く、主に歯列全体のバランスを確認します。
唇からの見え方も重要です。
パソコンソフトの調整だけでは、出来ない事がたくさんあります
そして、咬みあわせのチエックをしたら歯と歯茎の境目の歯型を採ります。 発音の時に空気が漏れたり、食べ物が入らないようにダメ押しで歯肉の型を採るのです。
精度の高い仕事って、大変なのが解りますか? だから、安売りなんて無理なのです・・・。 でも、 「目黒先生って丁寧なのに安いって」 って、同業者にはよく言われます(笑) 値上げするかな・・・。
もちろん、品質よりも安さを選ぶのは自由です。 でも、安物買いの銭失いにならないようにお願いしますね・・・。
上手な歯医者さんは、腕の良い歯科技工士さんと提携しています
ここからは、歯科技工士さんの腕の見せ所です。
今回は、セラミックブリッジの破折防止に強固な金属フレームを内部に仕込んでいます。 フレームのデザインも、歯の部分は光が透過出来るように考えていますよ。
セラミックブリッジが金属フレームにはめ込まれる途中の画像です。
歯ぎしりすると、こんな感じです。
そして、お口の中です。
参考までに、治療前後の写真です。
いかがですか? 歯を失ってお悩みのあなた、悩んでいる時間がもったいないですよ。
必ず、解決法はあります。
そして、歯を全て失っても総入れ歯にする必要はありませんよ。 インプラント時代です。 機能もそして見た目も、歯があった時よりも綺麗になる可能性だってあるのです。
お気軽にご相談ください。
では、また~ ■治療内容 上下の歯、 インプラントを支えとする固定式ブリッジによる治療
■治療期間・回数 約1年・約20回 *抜歯後の治癒待ち期間を含む ■費用(自由診療) 総額 ¥700万円 ※治療費は治療契約当時のものです。治療内容と状態により異なります。 ■リスク・副作用 インプラント手術は高齢や持病によってはできない場合もあります。 清掃を怠るとインプラント周囲炎が起こることがあります。