今回の症例は、70代女性の患者様です。
入れ歯の不具合で、遠方からの来院です。
咬みあわせが悪く、
上の入れ歯が落っこちるし、痛くて食べられないそうです。
「スパゲッティが食べられる入れ歯にして欲しい」との事でした。
ご主人と、美味しい物を食べて旅行を楽しみたいそうです。
精神病になりそうとの事でした。お気の毒です・・・。
高性能?なお勧めの総入れ歯だったのに・・・
下の写真が、初診時の状態です。
素人のあなたが見たら、綺麗に見えるかもしれませんね・・・?
上の歯が総入れ歯、下の歯がセラミック冠なのですが、
インプラントが得意な歯医者さんで、最近治療したばかりだそうです・・・。
上の総入れ歯は、治療費80万円だったそうです・・・。
総額200万以上です。
下の奥歯が無いと、上の総入れ歯は安定しません・・・
横から見たところです。
大臼歯と呼ばれる、大きな奥歯を失っています。
よく見て下さい。
赤丸部分の奥歯が咬み合っていません・・・
入れ歯が得意な歯医者さんなら、問題点に直ぐに気がつきます。
入れ歯を外すと、使用されていないインプラントが3本埋め込まれていました。
さらに、炎症を起こしています・・・。
このインプラントは、入れ歯を製作した歯医者さんとは
別の歯医者さんで埋め込んだそうです。
その歯医者さんでの治療が不安になり、
ネットで宣伝していたインプラントが得意な歯医者さんを受診し、
今回の治療を受けたのです。
赤丸部分のインプラントが炎症を起こしていました。
下の歯は、セラミック冠が装着されています。
見ただけで、低性能な感じ・・・?
総入れ歯の写真です。
担当の先生が、「高性能な総入れ歯だから、大丈夫」
って、お勧めしてくれたそうです・・・
治療を強要しませんので、安心して下さい
診査の結果、理想的には上下の歯を全て再治療したいのですが、
上の歯のみ、再製作。
下の歯は、セラミック冠はそのままで、
後方にインプラントを追加して奥歯を増やす事で妥協しました。
歯科治療の最高峰は総入れ歯治療です。
インプラント治療よりも、遙かに難しいです。
この方の問題点です。
そもそも総入れ歯は、歯科治療でもっとも難しい治療なのです。
上の入れ歯は重力で落っこちるからです。
上の入れ歯が落っこちないようにするためには、
左右の奥歯がしっかりとバランスよく咬み合って、
入れ歯を上アゴの歯肉に押しつけなければいけないのです。
この方の場合は、右側の奥歯が咬んでいません。
総入れ歯は、前歯で咬んではいけません。
さらに、大きな奥歯を失っていますから、前歯で咬むことになります。
入れ歯が転覆しますから力学的に不利なのです。
その理屈が解らない歯医者さんに、お金を払ってもよい結果は出ないのです・・・。
ということで、治療経過です。
まずはお気の毒なので、患者様がお持ちだった別の入れ歯を修理しました。
下の写真が修理前です。
そして、修理後です。
高性能?な入れ歯と並べてみました。
咬み合わせも修正していますので、
もうこの時点でスパゲッティは食べられるようになりましたよ。
同じように見えても、微妙な咬み合わせの修正で見違える程、
入れ歯は安定するようになるのです。
下の奥歯に、インプラントを埋め込みました。
赤丸部分のセラミック冠の形態が不良です。
外側に飛び出しています・・・。
上の総入れ歯に対して、不利な力が働くのです。
おそらく、無計画に製作されたのでしょう・・・
インプラントに支えられた奥歯が、装着されました。
総入れ歯の歯型は、あなた専用のトレーで採得します
上の総入れ歯の歯型です。
まずは、歯型を採得するための専用トレーを製作します。
高精度なシリコンで歯型を採得します。
ゴシックアーチトレーサーを使っている歯医者さんがお勧めですよ
しかし、歯型が精確でも咬みあわせが狂っていたら、意味がありません。
そこで、こんな器具の出番です。
あなたの咬みあわせの中心の位置を、
記録する器具です。
歯医者さんはゴシックアーチトレーサーと呼んでいます。
ゴシックアーチトレーサーも、熟練が必要です。
上アゴに装着されたプレートに、下のピンでアゴの動きを記録するのです。
カラスの足跡みたいな矢印の尖端が、咬みあわせの中心になります。
その位置で、上下のプレートを固定します。
そして、全ての歯を並べて咬みあわせの位置と、
見た目を確認し完成します。
こんな器具、見た事ありますか?
見た事があれば、真面目な歯医者さんかも・・・
歯の軸が傾いていたので、基準の記録を採り直します。
測量に使う器具みたいですよ。
赤いレーザー光線で、水平と垂直の確認ができます。
そして、ついに完成です。
下の歯のセラミック冠の位置が不良なため、咬みあわせのバランスに苦労しました。
与えられた条件の中で、できる限り緊密に咬ませています。
治療前と比較してください。
完成した総入れ歯の画像です。
いかかですか?
下のセラミック冠はそのままですので、理想的ではありませんが
なんとか上の入れ歯は安定しています。
後は、リハビリで使いこなすトレーニングをするだけです。
患者様にも、お喜び頂けました。
まずは、一安心です。
入れ歯はインプラント治療のように、固定式ではありません。
歯肉の上に乗っかっている不安定な道具です。
入れ歯には入れ歯のルールがあります。
インプラント治療が得意でも、入れ歯が上手に作れる訳ではないのです・・・。
80万円の高性能な入れ歯?が、それを証明しています。
とても、お気の毒です。
歯医者さん選びは、慎重にお願いしますね。
ではまた~
■治療内容
上の歯、
総入れ歯
下の奥歯
インプラントを支えとするセラミック冠
■治療期間・回数
約六カ月・約12回
■費用(自由診療)
総額 ¥150万円
※治療費は治療契約当時のものです。治療内容と状態により異なります。
■リスク・副作用
インプラント手術は高齢や持病によってはできない場合もあります。
清掃を怠るとインプラント周囲炎が起こることがあります。