今回のお話は、インプラント体に装着される義歯についてのお話です。
あなたはインプラントに装着されるセラミックにも、沢山の種類があるって知ってますか?
そこで、まずはインプラントに装着される義歯(上部構造物)についてご説明しますね。
1,種類
沢山の技法がありますが、今回は当院で採用している代表的な仕様ついての解説になります。
ワンポイントアドバイス
「ネジ固定式がお勧めです!」
「長期経過の症例を、見せてもらいましょう!」
当院のインプラントに装着される義歯は、基本的にインプラント周囲炎になりにくいネジ固定式を採用しています。ネジ固定式が安心・安全でお勧めだからです。何かトラブルが起きたらネジを緩めれば簡単に取り外せるからです。
実は、安売りインプラントの多くは経費や手間暇を削減するために、接着材で固定する技法が多いのです。そのため接着材の取り残しリスクが必ずあり、インプラント周囲炎になりやすいという欠点があります。さらに、トラブルが起きても壊さないと外せません・・・。
しかし、ネジ固定式のジルコニアセラミック冠でも経費や手間暇を削減するために、チタンベースと呼ばれる金属部品を省いている場合があります。精度や強度に問題がある場合が多いのでご注意ください。
さらに、このジルコニアセラミック素材のネジ固定式の冠ですが
実はいろんな技法があります。
名前が同じでも、製作方法が全然違うのです。
遠慮しないで、歯医者さんに構造を確認する事をお勧めしますよ!
でも、困ったことに製作方法の細かい部分まで把握している歯医者さんはとても少ないです・・・。
① 金属冠(ネジ固定式)
全て銀色の金属で製作されています。
歯科技工士さんが原型をデザインし、CAD/CAM技術で金属(チタン等)のブロックから削り出して製作します。
主に奥歯(大臼歯)に使用します。
利点
強度が高く丈夫、破損する可能性がほぼ無いです。
咬みあわせの関係で、歯の高さが少ない場合でも対応可能です。
見た目は悪くても、費用を抑えたい方に最適です。(貴金属を使用する場合は例外)
欠点
銀色の金属冠なので、見た目が悪い。
希に金属アレルギーのリスクがある。
➁ハイブリッドセラミック(硬いプラスチック)前装冠(ネジ固定式)
歯科技工士さんが金属フレームの原型をデザインし、CAD/CAM技術で金属のブロックからフレームを削り出します。
その金属製の骨組みに白い樹脂(プラスチックとセラミックの混合物)を盛り付けて、
歯の形に成形した物です。
どの部位にでも使用可能です。
利点
セラミックに比較すると透明度が劣るが、見た目は綺麗です。
白い部分は樹脂なので、割れた場合でも部分的に修理ができます。
(劣化したら、全面的にリペアも可能)
金属の骨組があるので、本体はとても丈夫です。
レベルの高い歯科技工士さんが製作すれば、セラミック冠と同等の審美性を持ちます。
(但し経年劣化します)
欠点
セラミック冠と比較すれば、どうしても質感が劣ります。
摩耗しやすいので、すり減ったらリペアが必要です。
(追加費用が必要ですが摩耗しにくいように、
部分的に金属やセラミック冠を使用する技法もあります。)
③ジルコニアセラミック冠(ネジ固定式・チタンベース)
現代の主流にな③ている技法の1つです。
義歯全体が、セラミックの一体構造になっています。
歯科技工士さんが歯の原型をデザインし、CAD/CAM技術でオールセラミック冠の原型を削りだします。それを、熱処理し高強度のセラミック冠に置き換えます。その後チタンベースと呼ばれる、ネジ固定式用の金属部品に接着した物です。
どの部位にも使用可能です。
チタンベースには既製品と、より破損しにくいオーダーメイドの2種類があります。
理想的には、オーダーメイドのチタンベースがお勧めです。
利点
セラミック冠なので、見た目は綺麗です。
高強度セラミック冠なので、比較的破損しにくいです。
欠点
丈夫なセラミック冠なので、破損しにくいのですが100%ではありません。
硬い素材ですが、セラミックは金属のように粘り(弾性)がありません。
割れやすいという性質もあります。
基本的に、部分的な修理はできません。破損した場合は、割れた部分を応急的に樹脂で補修するか、鋭利な部分を整える程度しか対応できません。大きく破折した場合は、再制作する事になります。
咬みあわせの関係で、歯の高さが少ない場合には強度が不足するので好ましく無いです
チタンベースとセラミック冠が、剥がれる場合があります。その場合は、再度接着すれば元通りに使用可能です。(理想的には、再制作をお勧めします)
④ジルコニアセラミック冠(ネジ固定式・チタンフレーム・疑似歯肉付き)
ネジ固定式の金属製オーダーメイドのフレームに、オールセラミック冠を1本ずつ接着した物です。
主に、多数歯欠損の連結冠で使用します。疑似歯肉が付きます。
アゴの骨が痩せていて、疑似歯肉が必要な場合には最適です。
利点
セラミック冠なので、見た目は綺麗です。
高強度セラミック冠なので、比較的破損しにくいです。
セラミック冠が破損しても、部分的に修理可能です。
セラミック冠の審美性とチタンフレームの強度を併せ持つ理想的な技法です。
欠点
丈夫なセラミック冠なので、破損しにくいのですが100%ではありません。
硬い素材ですが、セラミックは金属のように粘り(弾性)がありません。
割れやすいという性質もあります。
構造上、疑似歯肉が必要なので歯の長さが短い症例にはお勧めできません。
(例外的に、審美性が問題とされない奥歯なら疑似歯肉を付けない場合もあります。)
2,治療費の目安
*下記の順番は製作担当者、特別仕様等により入れ替わります。
歯科技工物は、フルオーダーメイドです。使用材料で単純に費用が変る物ではありません。
あくまでも、参考目安としてお考えください。
①費用をできるだけ抑えたい場合の順番(義歯1本の費用です)
- 金属冠(チタン・コバルトクラウン) 約30~35万円程度
- 硬質レジン(ハイブリッドレジン)前装冠 約35~40万円程度
- ジルコニアセラミック冠 約40~45万円程度
下の画像が、オーダーメイドのチタンフレーム
ジルコニアセラミック冠を接着したケースです。
いかがですか?
なんだか良く解らないですよね・・・?
歯医者さんですら、解っていない人が多いのですからしかたないです。
主に使用する素材で説明してきたのですが、
強度に影響を与えるのは素材だけではありません。
素材以外の強度に与える因子は
- 素材の厚み
- 咬み合わせ
- 歯の形のデザイン
- インプラントの埋め込む位置・方向
等、いろんな事が影響します。
特に、壊れやすいのがインプラント体に接続される部品の周囲です。
部品の周囲の厚みが不足すると破折しやすいのです。
これは、技工士さんだけの問題では無くアゴの骨が痩せていて理想的な位置にインプラント体を埋め込む事が困難な場合にも起こりやすいのです。
咬みあわせの関係で、物理的に素材の厚みが確保できない事もあるのです。
経験豊富な歯医者さんなら、適材適所に技法を選択する事ができますがそもそも技工士さんに丸投げの歯医者さんがほとんどです。
知識の乏しい歯医者さんの無理な設計で作られる事もありますから、注意が必要です。
当たり前ですが、経験豊富な歯医者さんと技工士さんのコンビがお勧めです。
では、参考症例です。
奥歯の欠損に、金属冠とオーダーメイドのチタンフレームに高強度のジルコニアセラミック冠を接着したものです。
50代の患者様です。
奥歯に違和感を感じ、遠方からのご来院です。
レントゲン写真です。金属冠の下で根っこが折れていました。
残念ながら、保存不能です。
いろいろな原因が考えられますが、
最大の原因は、神経組織が除去された歯に無理な咬みあわせの力を負担させた事だと思います。
画像の左端の金属冠の下には、根っこの支えがありません。
この部分に加わる咬む力が、手前の奥歯に加わるのです。
テコの支点になるのです。さらに金属疲労を起こして金属冠は歪み中の接着材が溶け出して虫歯になりやすくなります。
今さらですが、どうしてもこのような設計にするなら歯を小さくして負担を軽減する工夫が必要だったかもしれません。
と言うことで、今回はご相談の結果インプラント治療を選択されました。
下の写真が、金属冠を外したところです。
見るからにボロボロです。
そして、歯を抜きました。
そこに、インプラント体を埋め込みます。
抜歯と同時の埋め込みです。
抜歯即時埋入と呼ばれています。
経験豊富な歯医者さんなら対応できますが、初心者向けではありません。
最近では、インプラント体の直径が太いものが普及しきましたので、難易度が低くなりましたが難しいです。
この技法の利点は、
① 嫌な外科処置の回数が減らせる事
② 治癒期間を劇的に短くできる事
等です。
周囲に移植材を填入して終了します。
およそ、2週間後の状態です。
そして、約12週後にインプラント体が定着しているかを確認します。
(抜歯していない部分に埋め込んだインプラント体は、約8週間で定着します)
歯肉が落ち着いたら、歯型を採って完成です。
咬みあわせの面に、ネジ穴が見えますよ。
ネジ穴を樹脂で塞いで終了です。
いかがですか?
治療法の名前は同じでも、内容は歯医者さんによって大きく異なります。
当然ですが、治療期間、咬み合わせ、品質、長持ちするか等など大きく影響します。
歯医者さん選びは、難しいですね・・・?
ではまた。